高木 昇

好きな先生の教科は面白かった。

 小さい頃、母がプラモデルをよく与えてくれて、それを作っていた記憶があります。中学生の頃は美術も好きでしたし、友達とラジコンを改造していましたね。それが工学の分野に進んだきっかけかもしれません。
 高校時代には現代社会のグループ課題で当時話題になったニューメディアを調べ、KDD(国際電信電話)まで友人と取材に行きました。その頃はニューメディアの単語に代表されるように情報処理技術が盛んでした。大学4年生の頃には第二次AIブーム(ファジィ理論やニューラルネットワークなどの言葉が出始め、家電で応用され話題になった)の只中だったので、自然と情報処理の分野に興味を持ったと思います。先生や先輩にも恵まれ、卒業研究から学位論文までは、論理代数を研究していました。コンピューターの基礎数学であって学際的な領域です。基本的に紙と鉛筆のみの研究スタイルでした。

ニッチだけれど必要なところ。

 現在は福祉情報工学の一分野として、視覚障がい者を支援する応用技術の研究を実施しています。筑波技術短期大学(現筑波技術大学)に、同じ研究室出身の先輩が勤務していて、視覚障がい者を支援する情報技術の研究を開始するに至りました。他の大学の先生からも「全盲のDr.がいるのだが、教えられない。特に図が難しい」という声を聞きました。
 筑波技術大学は日本で唯一の視覚と聴覚に障害を持つ生徒のみが入学できる国立大学。聞き及ぶところでは、このような障がい者のみを受け入れる国立大学は日本にしか存在しないそうです。
 今私たちが中心的に取り組んでいるのは、学習支援や理数系の学習の際にいかに図を容易に理解できるかなどの支援です。学ぶ側、教える側のSTEM教育(Science, Technology, Engineering and Mathematics)の分野ですね。他には九州大学を退官された鈴木昌和先生が代表をされている視覚障がいの子どもたちのチャレンジする機会を創出する『科学へジャンプ』という活動の北陸地域の担当をしています。
 視覚障がい者は図の利用に重大な困難を生じており、彼らが理数系科目の学問を勉強する際に大きな障害となっています。ですから今後はそこを低減化するための技術開発やシステム開発を主に推進する予定です。理想としては、全盲の学生でも理数系を容易に学習できる支援システムを開発する。教科書などに掲載される図を利用する際のバリアの低減化もありますが、全盲の教員が自らの講義で使う補助教材としての図を独力で作図できる支援技術も含みます。

感想ではなく、意見を持ってほしい。

 全盲の教員の講義を聞く機会があることは、学生たちにとって、貴重な経験になっていると思います。印象に残る講義です。学生たちが作ったものを実際に使ってもらったり、刺激にもなっていると感じています。
 学生たちには、工学といった学問の修得にとどまらず、幅広い知識を修得し、自ら考え自ら判断し、さらに行動できる人間に育ってもらいたいと考えています。



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