岩井 学
理由はなくても、興味があった。
高校時代の文理選択のときには迷わず理系を選びました。理学か工学かの選択の時に「工学だ!」と思ったのは、やはりロボットだとか、ものを作ることに興味があったからです。きっと子供の時からものづくりが好きだったんだと思いますよ。現在の研究分野を選んだのもより良い製品を作るためのものづくりの方法を開発することに携わりたいと思ったからです。
現場で役立つ技術を開発し続けたい。
ものづくりの現場では職人さんがすべて手作業でやっている画が思い浮かべる人が多いと思います。実際はコンピュータ仕掛けの工作機械がすべて自動でやっています。製品の受け渡しはロボットが行っています。コンピュータやロボットがすべて自動で作ってくれるのでは?と思うかもしれませんが、すべてが思うようにはうまくいきません。より良い製品を作ろうとすると、良い材料が必要となります。材料が良くなると、たいていは硬くなるため、その加工はとても難しくなります。
昔、「ほこ×たて」というTV番組(2011年1月〜2013年10月まで様々な分野のスペシャリストが対決する番組)の中で「最強の金属 vs 最強のドリル」という名物企画がありました。この番組を例にします。最強の金属を作った企業は、とても硬いことはもちろん、簡単にドリルで穴が空かないよう工夫していました。最強のドリルを作った企業は、練習無しのいきなり本番で穴を空けなければいけませんでした。そのため最強のドリルを作る他に、穴を空けているときの発熱や負荷などをリアルタイムで測定し、様々なトラブルに対応できるようにしていました。このようにものづくりを上手に行うための賢い方法や仕組みを開発することが私の研究テーマです。工作機械やロボットに「自動で簡単に」仕事をさせるには、加工の良し悪しを各種のセンシング技術で把握し、最適な加工方法を確立する必要があります。小型で高機能な製品が開発される際に無くてはならないのが生産技術というわけです。
航空機、自動車、家電製品をはじめ、ロボットに使われる部品を上手に加工するための技術を開発しています。ウルトラファインバブル(ナノバブル)クーラントに関する研究は、皆さんにも身近なお風呂、シャワーヘッド、洗濯機などに応用されているマイクロ〜ナノメートルの微細な泡を混入した水をものづくりに活用する研究です。お風呂に入った時に温かく感じ、汚れがよく取れるというメカニズムは、水が肌にまとわり付きやすい性質によるものだと考えています。材料を削ったり磨いたりするとき、潤滑を良くし、加工中の発熱を抑えてくれる効果に繋がります。結果として、高品位な製品を能率よく加工することができます。私の研究室では、その効果を明らかにし、有効な利用方法を確立させようとしています。
新しく開発された材料(ニューマテリアル)の加工方法を提案することも私の研究の一つです。光学特性に優れる石英ガラスはレンズなどに用いられますが、加工がとても難しいです。私達は超音波振動を利用しダイヤモンド工具を数マイクロメートル振動させ、能率よく高精度に切り取る方法に取り組んでいます。またダイヤモンド工具の寿命を延ばすため、ホウ素を含んで導電性を持ったユニークなダイヤモンドも利用しています。
好きなことをやり続けた。だから今がある。
高校生のときに進路を考えた時は「普通に大学にいくかな」と思い、大学に入学しました。大学4年生になるときには「なんとなく研究を続けてみようかな」と思い、大学院(修士課程)への進学を決めました。ちょうどその時に海外旅行し、同年代の人達と将来について話し合うと、大学院まで進学する理由やどんな仕事に就きたいのか、きっと強い想いがあるに違いないと思われました。英会話に慣れていないこともありましたが、「なんとなく」と言ったのをいまでも覚えています(笑)。「なんとなく」の気持ちは博士課程への進学まで続きました。博士の学位を修得し、大学教員になることができましたが、ノリで決めてきた進路でよかったんだろうかと悩むこともありました。40歳になる頃、「なんとなく」のこれまでの人生は「好きなこと」をやり続けた人生だったと思うようになりました。理由はあとから付いてくるので、若い人には面白そうだ!と思ったことに積極果敢に挑戦して欲しいです。これからも学生達と一緒に、生産現場で役立つものづくり技術を開発し続けたいです。