松本 公久
まだ誰もやっていない研究を見つけた。
色々なものの元となり加工技術の発達に繋がる材料研究は、あまり注目されませんが、実はとても重要です。例えば青色LED。中村修二先生が自分でガリウムと窒素を混ぜて反応させ、個体を作りました。それを発光させる為には原子がきちんと並んだものでなければいけません。他のメーカーでは難しくてできなかったことを、日本の中小企業の中村先生が達成してしまった。学生の頃にその話を聞き、発光材料は面白い!と思い、材料系の研究をはじめました。ちょうど研究室ではシリコンの研究を行っていて「シリコンはもうやりつくされている材料ではないのですか?」と聞くと「シリコンは確かにCCDやCPUにもなっているけれど、発光させる為の研究はこれからだ」と。そこで出会うことができたのです。
より光るものを作り出していく。
これまではシリコンナノ微粒子の作製およびその光物性評価の研究をしてきました。シリコンとは、半導体の1種であり電子機器の中で用いますが、発光効率が低い材料であるため、LEDペンライトなどの発光素子としては利用されていません。しかし、シリコンをナノメートルサイズの粒子にすることで、量子サイズ効果と呼ばれる現象によって発光することが明らかにされました。私はこれまでスパッタ法
(注1)やレーザアブレーション法
(注2)でシリコン微粒子を作製し、その光物性評価を行ってきました。もしSiを発光素子として利用できれば、レアメタルを使わない、安価なLEDが実現できます。
(注1)アルゴンガス粒子を固体にぶつけて、その衝撃で固体の成分をはじき出し、周辺に置いた基板上に堆積させ、薄い膜を形成する方法。
(注2)強力なレーザー光を固体の表面に照射すると、表面から原子・分子が蒸発して固体表面が削り取られる。この蒸発した原子・分子を向かい合って配置した基板上に堆積させ、薄い膜を形成する方法。
技術を組み合わせて作る、残すところがない研究。
現在の研究テーマは溶液に分散する蛍光シリコン微粒子の作製です。シリコンはもともと、無毒な材料であるため、バイオマーカーや蛍光材料、化粧品などへの応用も期待されています。蛍光スペクトルの測定など物性評価を行い、発光効率の高い溶液分散シリコン微粒子の作製法を検討中です。試料の作製には化学合成のプロセスもあるため、物理学だけでなく、化学や生物の知識も必要となります。このような幅広い知識を必要とする研究は他学科には少なく、知能ロボット工学科の特色です。
工学部は人の役に立つものを作っていかなければならない。そのひとつが環境関係だと思っています。シリコン微粒子を作製するにあたり、今後は原材料に注目して研究を進めていきたいと考えています。シリコン自体は埋蔵量が豊富で安価に手に入りますが、シリコン微粒子を作製する際には、高価なシリコンウェハーを使用します。そうすると、結局のところ、作製コストが高くなるという問題点が出てきます。そこで環境適応型材料に磨きをかけるため、シリコンウェハーを使うのではなく、イネのもみ殻から作ろうと考えました。イネのもみ殻に含まれるケイ酸は、燃やしても細かいガラスのように残り、産業廃棄物になります。これが高付加価値な蛍光材料やバイオマーカーになるとリサイクルが進むのではないかと思っています。
同じ研究者として一緒に進めたという実感を。
「イネのもみ殻からシリコン微粒子ができる」というのも学生が持ってきたんです。私達のセンスはシリコン微粒子があったら光らせようというセンスですから(笑)。学生が自分たちで見つけて来るのは偉いなと思いますね。これは受け身では絶対に無理で、研究者としての仕事をしているんです。授業の時は教育者と学生でも、研究室に入ってきたら研究者同士。「まず何をやればいいんですか?」と聞かれたら「それを考えるのがあなたの仕事です」と答えます。そういう意味で、自ら楽しく研究の意義を見いだせる人を求めています。自分で作ることの喜びを感じてほしいと思います。
【プロフィール】
2001.3甲南大学理学部物理学科卒業、2003.3甲南大学大学院自然科学研究科修士課程修了、2007.3神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了、2003.4-2006.3国立県営兵庫障害者職業能力開発校非常勤講師、2007.4-2009.3神戸大学連携創造本部先端研究推進部門講師(研究機関研究員)、2008.4-2009.3関西大学システム理工学部非常勤講師、2009.4富山県立大学工学部講師、2018.4同大学准教授