本研究室は、日々の生活や多くの産業と密接にかかわる「音」とそれを聴く「聴覚」に関する幅広い研究テーマに取り組んでいます。

音は、空気の振動という物理的な現象であるとともに、耳から脳に至る聴覚系で神経処理がなされて「聴こえ」が生み出される生理・心理的な現象でもあります。そして、聴覚は、耳に到達した音の断片から、実に巧みに相手が発するメッセージを解読したり周囲の状況を把握したりしています。私たちは、このような多面性を持つ音を「ことば」を伝えるのに利用するとともに、身のまわりの状況を判断するのに利用したり、注意を喚起するために利用したり、そして、音を楽しんだり、音に悩まされたりしています。そのため、音と聴覚に関係する学問と技術の分野はとても広い範囲におよびます。

このような音を扱う人間の聴覚情報処理の仕組みは未だにベールに隠されたまま、音や声を扱う情報通信技術はどんどん発展しています。音情報を操る技術や、配信される音情報がもたらす影響力は、ユーザである人間の聴覚情報処理の仕組みと無縁ではありえません。その仕組みをこのまま知らずに済ませることもできますが、音を聴き、音を生成する人間の仕組みをより深く総合的に理解することは、人間と環境に潤いを与える新しい技術を創り出すために、今後ますます重要になってくると考えます。

本研究室では、聴覚の情報処理の仕組みを明らかにし、その仕組みを利用した新しい技術を開発するために、音響工学技術と音響計測技術と心理物理実験とを組み合わせた研究プロジェクトを進めています。脳の巧みな聴覚情報処理の仕組みを垣間見つつ音を操る新しい技術や道具を創る、という相補的なプロセスを通じて、人間の聴覚機能を違和感なく拡張したり、コンピュータの聴覚機能を向上させる新しいインタフェース技術を創り出すのが狙いです。

最近は、頭部の動きを考慮することで立体音像の再生を容易にする動的バイノーラル再生技術、自分がそこにいるかのように遠隔地の音を立体的に聴くことができるテレヘッド技術、頭部周囲の音響伝達関数を一瞬で計測する技術、ガラスビンの打音の研究などに取りくんでいます。